Giving Cynara a New Life

美しい木造帆船の『シナーラ』は、リビエラグループを象徴するフラッグシップであり、世界が私たちに与えてくれた素晴らしい宝物です。私たちの夢は、この帆船をできる限りオリジナルの状態に戻して、富士山を望む美しい相模湾にもう一度進水させることです。20152月に修復プロジェクトを立ち上げ、『シナーラ』が90歳を迎えた20171月に海から上架し修復作業を開始して以来、私たちはこの夢を強く抱き続けました。そして、4年の歳月を要したレストア作業を経て、2020年、シナーラのレストアが完成しました。

The Survey

『シナーラ』は、ヨーロッパおよび南北アメリカに存在する同年代の多くのヨットのような大規模な修復を加えられたことが、これまでに一度もありません。そして90年という歳月のうちの半分にあたる45年を、日本の三浦半島周辺で過ごしてきました。2014年12月に立案された最初の計画は、『シナーラ』を修復のためにヨーロッパに送り、誕生の地で新たな生命を吹き込むというものでしたが、レストア技術者のいない日本への技術伝承を目的とし、2015年1月には修復の拠点が日本のシーボニアマリーナへと変更されました。これは、計画を考えはじめた時点では思いもよらなかったことです。
英国の海事鑑定人による調査が三浦のリビエラシーボニアマリーナで実施されました。そして、『シナーラ』を港の係留地からドックに引き上げるのにも、予想外の労力が必要とされました。ヨットの陸揚げだけでも簡単なことではありませんが、海岸から50メートル離れた調査の可能な場所まで移動させるのはさらに難しく、古民家移築のテクニックを応用することになりました。1回に数センチずつ動かしながらドックの所定の位置に収めるという作業が、数週間も続けられたのです。
ようやく行われた調査の結果、この船の当初の建造に用いられた材料の約80%弱も、修復後も再利用できることが明らかになりました。

The Team

日本の造船技術は世界でもトップクラスですが、1世紀近く前に建造された英国の木造帆船を完全修復するとなると話は別です。困難なことではありましたが、プロジェクトを『シナーラ』の母港であるリビエラシーボニアマリーナで実施すると決め、船の修復を専門とする職人とエンジニアを海外から招き、日本人の職人と一緒に作業を進めました。この国際協力が、プロジェクトに教育的な側面を付加。こうして日本に伝えられた専門技術は、今後の帆船修復に活かされるはずです。今回の修復では、リビエラシーボニアマリーナの特設ドックに世界12か国から50人を超える世界有数の腕前をもつ船大工たちが集い、約4年に渡る作業の中で互いに技を伝え合ったことを、私たちはとても誇りに思っています。

『シナーラ』は、私たちがこれまでに手掛けてきた中でも指折りの格調高い船で、その修復にリビエラファミリーの一員として加われたことは私たちの大きな誇りです。

ヨーロッパの職人が遠く日本の地を訪れ、日本の技術者とともに船の修復に携わるという機会は、今まで一度もありません。私たちはリビエラの意欲的な構想に心を動かされ、熱意あるスタッフと力を合わせて仕事に取り組んできました。『シナーラ』が誕生した英国と日本とでは数多くの違いがあるために、仕事には難しい部分もありましたが、この船を建造した当時の職人たちも、困難な条件のもとで皆の知恵を集めながら手を携えていたことを忘れてはなりません。

『シナーラ』は再び世界の海を、優雅に風を受けながら進むことでしょう。私たちは、この船にこれまで関わってきた歴代の職人たちが感じていたに違いない誇りと喜びを、日本の人々と分かち合えることを楽しみにしています。

棟梁

Paul Harvey

Master Shipwright

Dismantlement 

2017年4月、船をリビエラシーボニアマリーナの特設ドックに安全に収めた状態で、『シナーラ』の解体作業がはじまりました。各部分の木・金属の部材を1つずつ、確実に決められた順序通りに取り外してから、テープで配置順を示すマークをつけ、ラックに収めていく作業です。現場の日本人スタッフが棟梁のポール・ハービーから最初に学んだのは、「P(左舷)、S(右舷)、A(後方)、F(前方)の4つの文字を覚え、11つの部品に必ず書いておくこと」でした。作業が進むにつれて、90年前にこの船を建造した造船技師たちの仕事の質の高さが明確にわかり、彼らの誇りと情熱に触れることができました。

The Keel and Frames

作業場で『シナーラ』を分解してみると、面積が約3平方メートルもあるブロンズ製の大きな板が2枚見つかりました。船が何かに衝突して竜骨の鉛バラストの前側が損傷を受けたために、修理に用いられたように見えます。もちろん船を当初の強度に戻す必要があるので、この部分の肋骨は、当初より強度が50パーセントほど高くなる新しい積層構造の鍛鉄で複製しました。さらにブロンズ製の板ももう一度装備したので、船のこの部分の構造は非常に強化され、最初の設計をはるかに超えるものとなりました。この段階の作業は20184月に完了しました。

The Hull 

船体の外板修復は2017年5月に船底塗装を剥がすことから着工しました。膨大な仕事量の面積に対して、3人体制でスクレッパーによる手作業で進めていきました。外板を傷つけないために電動工具の使用は棟梁のポール・ハービーとベンジャミン・ホブスが認めませんでした。

作業でつける傷を最小限に抑えるのは、1本でこれだけの長さのチーク材を見つけることは非常に難しい、という彼らの経験からの判断であり、再利用できるものは限りなく修復して使いたいと解体段階から見据えていたからです。
船体の外板は、「反って曲がって膨らんでいる」異次元の形をしており、新しい真っすぐなチークを使って同じ形を再現することは不可能に近いものです。

最終的に、外板は全体の92%がオリジナルのチーク材を再利用して修復されました。わずか1枚の交換にも、国内製材所をくまなく探してやっと見つけた長さ7mのチーク材を使って新たに製作され、複雑な曲げ加工はスチーム工法によってゆっくりと形作られていきました。

Repairing the Deck

シナーラの元々のチークデッキを交換しなければならないことは当初から明らかで、2017年7月後半から撤去作業が始まりました。  特に真夏の暑さの中での作業は、背筋が凍るような作業でした。チークは長年の間に非常に硬くなっていたので、その過程でバラバラに砕かなければなりませんでした。  デッキは一枚板で作られているため、足元が不安定で安全性にも問題がありました。
できるだけ原材を使用する計画のため、撤去したチーク材の一部をダボにして修復に使用しました。  また、木材が乾燥して不鮮明になっていたにもかかわらず、表面を削るだけで元の輝きを取り戻すことができ、貴重な建材としてのチークの強さと柔軟性が証明されました。
シナーラ号の構造工事の多くが完了した後、2019年9月13日から10月18日までの間に、6人の熟練した船員によって新しいチークデッキの設置が行われました。新しいデッキは、天井の層、合板の層、そしてチークの最上層の表層の3つの層で構成されています。  この設計により、オリジナルよりもはるかに強度の高いデッキができあがり、簡単にメンテナンスができ、必要に応じて将来的に修復することができます。
このデッキがシナーラ修復の高い基準を満たすことを保証するために、チームは設置から1ヶ月間、長い時間をかけて集中し、献身的に作業を行いました。  完成したデッキは、彼らの努力の賜物であり、少なくとももう一世紀は持つと確信しています。

Interior

英国の国立海洋博物館から提供されたオリジナルの構造図により、復元を開始した時点でのシナーラの内装は、建造当時とあまり変わっていないことがわかりました。もちろん、船室のレイアウトやギャレーの設備などには、はっきりした違いもありました。最も印象的だったのは、1927年時点での計画では浴室が船室とほとんど同じ大きさで、浴槽まであったとわかったことです。テクノロジーの進歩と一時的な流行に促され、その他の変更も加えられていました。たとえば、固形燃料を用いる鉄製ストーブとストーブの煙突、1960年代の航海用計器、さらに新しい日本製の流し台、蛇口、トイレなどがあります。
シナーラにとって幸いだったのは、こうした長年の主な内装修理、改装、レイアウト変更が、1927年にこのヨットを建造した英国キャンパー・アンド・ニコルソンズ造船所のゴスポート・ヤードで実施されていたことでした。その結果、フランスワニスで塗装されたマホガニー材の縁取りパネルから手細工の照明器具とスイッチまで、時代の異なる作業にもすべて同じスタイルが保たれています。内装の装飾を可能な限りそのまま残しながら、建造当時に従ってレストアを行うと決心しました。
その方針は最後まで貫かれており、マホガニー材のパネルをそのまま残すとともに、その多くにオリジナルのものを利用しています。また数多くの照明器具、舷窓、サロンテーブルのジンバルも修復し、新しい家具は、たとえ目的が異なってもオリジナルのスタイルを写したものになっています。
唯一の違いと言えるのは古い家具に1世紀にわたって残された傷やへこみで、それはクラシックヨットに刻み込まれた歴史と品格とを象徴する存在のように思われます。

Exterior

内装と同じく、デッキ上のレイアウトとさまざまな構造にも長い年月を経て変更が加えられてきたのは明らかでした。一部のものは時代遅れになり、交換されていました。
デッキ上に残された構造物は年代相応のものに見えたものの、一部には問題になるに違いないと思われるものもありました。この船にははっきりした「反り」が見られ、船の前方と後方が下方にたわんでいたため、修復ではそれを直すことが最優先課題となりました。ハッチと天窓はどれも使い古されて傷んでおり、一見すると修復は難しく思われました。ところが取り外して磨いてみると、そのまま残して修復する価値があることがわかり、現在では円形のセールロッカー・ハッチを除いてすべてのハッチがオリジナルの修復となっています。
オリジナルの索具の艤装品は大半が鉄製でしたが、それらをブロンズ製の艤装品に交換しました。一方、今日にいたるまで使われ続けていたブロンズ製の艤装品は修復して再利用しています。バー・クリート、旗竿用ソケット、さらにビナクルと操舵装置などです。これらの艤装品には当初ニッケルメッキが施されていた跡が見つかったため、建造時のシナーラのデッキには「銀」のモチーフが採用されていたことがわかりました。ただし今回の修復では、磨き上げたブロンズ仕上げを用いています。
今回の修復での変更点としては、その他に最新式の電動ウィンチ、ブロンズ製の錨鎖管、最新式の救命ゴムボートを採用しています。デッキは1927年当時とよく似た状態で、キャンパー・アンド・ニコルソンズ造船所が手がけたヨットであることがひと目でわかります。

The Masts

マストをはじめとしたスパー類(ブームを含むすべての円材)は、早い段階から交換が必要なことがわかっていたため、オリジナルの設計と既存のスパー類から得たデータに基づいて新たな図面が作成されました。ベイマツを用いて実際にこれらを製作したのは、英国ブリストルにある高品質な木造マストを造るチームです。
今回の修復では、木材を集成した寄木造りの手法を用いて強度を保ちながら軽量化を実現しています。

The Rigging

オリジナルの鍛鉄製の艤装品については、残されていたものすべてを修復して再利用しました。一方、建造後の長い年月の間に交換されたり手直しされたりした金属製品については、共通のデザインを用いて新たに復元しました。現代の素材に見られる進歩、古い時代から残されていたものの稀少性、そして完全に機能する「古い」ヨットを生み出せる優れた人材という、三者の絶妙な組み合わせによって実現したもので、スペイン製のスチール製品、イタリアと英国で作られたブロンズ鋳造品、英国フェイバーシャムにある伝統あるパーツ製造会社の滑車装置一式が用いられました。

The Sails

シナーラの復元で求められるような高い水準で帆を製作できる伝統的な製帆所は、世界中を見ても数えるほどしかありません。修復チームが最終的に決断したのは、1926年にシナーラにはじめて取り付けられたオリジナルの帆を製作した製帆所への依頼でした。その結果、私たちが求めた復元の基準を満たす帆を生み出すために必要なものは、品質と経験であるという事実が再び証明されたのです。

Systems and Engineering

1927年にシナーラが進水して以降、テクノロジーの変化が最も大きかった領域はシステムと工学分野であることは一目瞭然です。たとえば、建造時に搭載されていたエンジンはKelvin C4 60 BHP ガソリンエンジンで、2個の95ガロン燃料タンクが両側に1個ずつ配置されていました。このエンジンはその後の過程で、ヤンマー・ディーゼルエンジンに置き換えられていました。今では燃料タンクはメインビルジ(船底部)に設置され、最初に燃料タンクがあった位置には2個の温水タンクが置かれるようになりました。
かつてのエンジンルームは、パイプとケーブルが複雑に交錯する油まみれの部屋でしたが、今では明るくきれいな空間に生まれ変わり、スペースも広がりました。また、油っぽく滑りやすかった木製の床面はアルミニウム板に改装され、耐火加工とともに防音加工も施されたので、 エンジンルームの騒音がヨットのほかの部分に漏れ出すこともなくなりました。解体の途上で、オリジナルの鉛製の送水管がまだ使われていることがわかったので、銅合金と強化プラスチック製の送水管に交換しました。
エアコンは、各船室にわずかな空間を見つけては工夫しながら設置しました。もともとあったビルジ通気口を再利用することで、ほとんどの船室ではエアコン装置の位置が見えないようになっています。
こうした作業はすべて、このヴィンテージヨットの歴史的な外観と雰囲気をしっかり保ちながら、21世紀のセーリングにふさわしい快適さと便利さをもたらす明るく清潔な室内を作り上げるべく、細部に万全の注意を払いながら進められてきました。

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